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 砂川事件最高裁判決は、今国会で審議されている安全保障関連法案を合憲とする根拠にならないこと(2015.6.15 山本 勝敏会員)

 

 はじめに
 今月10日、菅義偉官房長官は、衆議院特別委員会において、「憲法の番人は最高裁であるわけでありますから、その見解に基づいてその中で、今回この法案を提出させていただいたところであります。」と答弁し、今月11日、自民党高村正彦副総裁は、衆議院憲法審査会において、「砂川事件最高裁判決は国の存立を全うするための「必要な自衛の措置」を認め、しかも必要な自衛の措置のうち個別的自衛権、集団的自衛権の区別をしていない。これがポイントだ。」「4日の憲法審査会で参考人の憲法学者が違憲だと主張したが、憲法の番人は最高裁だ。憲法学者ではない。」「最高裁判決の法理に従って、自衛のための必要な措置を考え抜く責務があるのは憲法学者でなく政治家だ。」と意見を述べ、安倍晋三首相も、今月8日、訪問先ドイツでの記者会見において、3学者の違憲発言に関して問われ、「法整備の基本的論理は、砂川事件最高裁判決と軌を一にする。」と強調したと報道されている。

 

 砂川事件最高裁判決
 砂川事件最高裁判決とは司法権の独立を揺るがす政治的判決であり、その要旨は次のとおりである。
 わが国に対する外部からの武力攻撃に対処するため国内に駐留する米国軍隊が憲法9条2項の戦力にあたるか否かが争われた刑事事件において、1959(昭和34)年3月30日、東京地方裁判所はこれを肯定し違憲と判断した。

 これに対して、日米安保条約の早期改定を目論む当時の米国駐日大使ダグラス・マッカーサー二世から外交的圧力をかけられたわが国国務大臣藤山愛一郎は最高裁判所に跳躍上告(一審判決に対して憲法違反を理由に控訴審を飛び越して最高裁判所に不服申立=上告すること)を行った。

 跳躍上告中に、当時の最高裁判所長官田中耕太郎は、早期に最高裁裁判官の全員一致で米軍の存在を合憲とする判決を出すようにと望んだ米国の意向に沿って、米国駐日大使ダグラス・マッカーサー二世に対して、一審判決は全くの誤りとその破棄・差し戻しを示唆するとともに、米国駐日首席公使ウィリアム・レンハートに対して、「結審後の評議は、実質的な全員一致を生み出し、世論を揺さぶるもとになる少数意見を回避するやり方で運ばれることを願っている」と話したとされ、そのとおりに、1959(昭和34)年12月16日、最高裁大法廷裁判官の全員一致で一審判決が破棄、差し戻された。
 砂川事件最高裁判決とは、このように最高裁長官自らが司法権の独立(裁判官が外部の圧力に影響されず、その良心に従って独立して職務を行い、憲法及び法律にのみ拘束されるという憲法上の原則をその内容の一つとする。)を否定した曰わく付きの判決である。

 

 砂川事件最高裁判決は、今国会で審議されている安全保障関連法案を合憲とする根拠にならないこと
 前置きはここまでにして、砂川事件最高裁判決の内容に入りたいと思う。
 まず、第一に、砂川事件最高裁判決とわが国集団的自衛権の関係について論じる。砂川事件最高裁判決は、わが国に駐留する米国軍隊が憲法9条2項にいう「戦力」にあたるか否かが問われた訴訟であり、自衛隊の合憲違憲が問われた訴訟ではない。従って、判決は「憲法が自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として」と判示するにとどめて、自衛隊の合憲違憲については判断していない。

 次に、最高裁判決は、憲法9条は「わが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではない。」と判示しているが、これに続けて、日米安保条約は「平和条約の発効時において、わが国固有の自衛権を行使する有効な手段を持たない実情に鑑み」「国際連合憲章がすべての国が個別的および集団的自衛の固有の権利を有することを承認しているのに基づき、わが国の防衛のための暫定措置として、武力攻撃を阻止するため、わが国はアメリカ合衆国がわが国内およびその附近にその軍隊を配備する権利を許容する等、わが国の安全と防衛を確保するために必要な事項を定めるにあることは明瞭である。」、米国軍隊は「外部からの武力攻撃に対する日本国の安全に寄与するために使用することとなっており、その目的は、専らわが国およびわが国を含めた極東の平和と安全を維持し、再び戦争の惨禍が起こらないようにすることに存し、わが国がその駐留を許容したのは、わが国の防衛力の不足を、平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼して補おうとしたものに外ならないことが窺えるのである。」と判示している(下線は筆者)。

 つまり、最高裁判決の趣旨は、わが国の防衛力では外部からの武力攻撃を阻止するには不足すること、従って、ここで述べられているわが国固有の自衛権とは個別的自衛権(わが国に武力攻撃が加えられた場合にこれに対抗して武力行使する権利)であること、また、わが国個別的自衛権の不足を補うために駐留米軍が存在すること、従って、集団的自衛権(他国に武力攻撃が加えられた場合に、他国と密接な関係にある国がこれに対抗して武力行使する権利)とは米国のそれを指していることが明らかである。

 以上より、砂川事件最高裁判決は、わが国が個別的自衛権を保有することは認めるものの、憲法9条が戦力の保持まで認めているか否かについては判断しておらず、わが国の集団的自衛権については全く触れていないことが分かる。

 砂川事件最高裁判決は、菅氏や高村氏、安倍首相が主張するように、わが国に対する武力攻撃が行われていないにも関わらず、外国軍隊に対する武力攻撃を契機として存立危機事態を理由にわが国が海外で外国軍隊とともに武力行使すること(これを安倍内閣は「集団的自衛権」と呼んでいる)を認めた判決では全くないのであって、砂川事件最高裁判決が、安倍内閣が閣議決定した集団的自衛権を根拠付ける法理になることなどあり得ない。

 

 次に、第二として、高村氏は、先の衆議院憲法審査会において、「憲法学者が違憲だと主張したが、憲法の番人は最高裁だ。憲法学者ではない。」「最高裁判決の法理に従って、自衛のための必要な措置を考え抜く責務があるのは憲法学者でなく政治家だ。」と述べているのでこの点について論じる。

 まず、高村氏の見解は砂川事件最高裁判決がわが国集団的自衛権を認めているとの前提に立って述べられているが、前記のとおり判決は集団的自衛権を認めたものではないから、高村氏の見解は何ら最高裁判決の法理に従ったものではない。また、自衛のための必要な措置を考え抜く責務が政治家にあるとしても、それは憲法解釈の枠内で行われるものであり、その場合、憲法解釈は憲法学者の研究に負うところが大であるから、これを無視して行政権、立法権、司法権による憲法解釈が成り立つものではない。

 特に、ことが憲法に関わり、かつ、今回の安全保障関連法案のように従来の政府見解を逸脱する場合(自国防衛の一態様である専守防衛と他国防衛を目的とする集団的自衛権では防衛概念が根本から転換しており、憲法9条解釈の限界を超えていることは、本コラム「平成26年7月1日安倍閣議決定は、なぜ従来の政府見解を逸脱し、憲法第9条に違反するのか」「平成26年7月1日安倍閣議決定は、憲法法理論上、なぜ違憲なのか」で述べたとおりである。)、既に行政権や立法権、司法権による解釈の範囲を超えて憲法改正の問題であるから、主権者国民による判断、つまり憲法改正手続を俟たなければならない。今月5日、衆議院特別委員会において、中谷元・防衛大臣は「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのか」と答弁したが(後日撤回)、権力者は憲法を思うがままに解釈してよいという安倍内閣の本音を吐露したものであり、立憲主義の否定である。

 

 まとめ
 安倍首相、菅官房長官、高村自民党副総裁いずれの見解も、砂川事件最高裁判決を曲解し牽強付会したものであり、明らかな誤りである。また、高村自民党副総裁が、政治家が憲法9条の最終的解釈権限を有するかに述べる点は、憲法は権力者の恣意的権力行使を制限するために制定され(立憲主義)、政治の最終的なあり方は国民の意思によって決定されるのであり(国民主権)、権力者の明らかな傲慢である。
 第二次安倍内閣成立後の安全保障をめぐる議論は、権力者の恣意的解釈がまかり通る民主主義国家としてあり得べからざる事態であり、安全保障関連法案を廃案にできないとすれば、わが国民主主義は有名無実のものとして、一足飛びに圧迫と閉塞の時代に落ち込んでいくほかはない。

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