ヘイトスピーチについて(2017.4.5 呉 裕麻会員)
昨今、日本国内においてヘイトスピーチが蔓延している。ネット上のヘイト行為に限らず、デモや街宣活動が各地で行われている。
このヘイトスピーチに対する規制について、少し前までは、ヘイトスピーチもあくまで表現の自由であること、特定の個人に向けられたものでないことなどを根拠として、規制に消極的な意見が多かった。
しかし、このような意見は、ヘイトスピーチの持つ「暴力性」やこれにより生じる「被害」を無視したものであり、到底容認できるものではない。
実際に、ヘイトスピーチを浴びせられた「被害者」は、自身の身に危険を感じ、心身の不調を来すという事態が生じている。このような事態はもはやヘイトスピーチがいわゆる「表現」ではなく、言葉を用いた「暴力」に他ならないことを意味している。
かかる被害の実態を踏まえ、また、多くの市民の力により、平成28年にはヘイトスピーチ規制法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)が制定された。同法は、国や地方公共団体に、ヘイトスピーチの解消に向けた取組の責務を認めた。
同法の制定を踏まえ、横浜地裁川崎支部や大阪地裁は、相次いでヘイトデモを禁止する仮処分決定を言い渡した。また、川崎市は、ヘイトデモを予定している男性からの公園の使用許可申請を拒否する決定をした。
さらに、全国の地方自治体で先駆けてヘイトスピーチ対策条例を制定した大阪市のヘイトスピーチ審査会は、インターネットに投稿された動画3本をヘイトスピーチに認定すると市長に答申した。
このように、日本におけるヘイトスピーチに対しては、国、地方自治体、市民の力によって根絶に向けた積極的な取り組みが進み続けている。
しかし、残念なことに現時点ではすべてのヘイトスピーチが根絶されたものではなく、まだまだこれが横行しているのが実情である。
また、一部の民間企業等は、HPにヘイトスピーチを内容とするコラムを掲載したり、ヘイトスピーチを内容とする文書等を全社員に配布し、その感想を求めたり、運営する保育園の園児保護者にヘイトスピーチを内容とする文書を配布するなど、明らかに問題となる行動をとり続けている。
こうした実情は、日本における差別意識が根深いものであることを指し示すものであり、今後も引き続きヘイトスピーチ問題への取り組みを継続していく必要を感じさせる。