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 検事長の任期延長問題(2020.4.21 森岡 佑貴会員)

 

1 はじめに

 2020年1月31日、政府は、2月8日で63歳を迎えるため、その前日である7日で定年退官する予定であった東京高等検察庁検事長黒川氏について、国家公務員法81条の3を適用し、半年間、任期を延長することを閣議決定した。

 しかしながら、以下に述べるとおり、検察官の定年を国家公務員法の規定によって延長することは出来ない。

 

2 検察庁法と国家公務員法の規定

 検察庁法22条は、「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」と規定している。

 国家公務員法81条の2第1項は、「職員は、法律に別段の定めのある場合を除き、定年に達したときは、定年に達した日以後における最初の三月三十一日又は第五十五条第一項に規定する任命権者若しくは法律で別に定められた任命権者があらかじめ指定する日のいずれか早い日に退職する。」と規定し、同法81条の3第1項は、「任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」と規定している。

 国家公務員法上の定年の規定は、「法律に別段の定めがある場合を除」くとしており、検察庁法では、検察官の定年について定められている。

 この両者の関係について、鹿兒島重治(人事院事務総長)他編著の逐条国家公務員法(学陽書房)では、「国家公務員に関する一般的な定年制度は、昭和60年3月31日以降、新たに導入されたものである。それまでは定年制度は一部の公務員について実施されていたにすぎず、たとえば、特別職では、裁判官(最高裁70歳、高裁、地裁および家裁65歳)、・・・一般職では検察官(検事総長65歳、一般の検察官63歳)・・・等に定年が定められていた。」(640頁)、「『法律に別段の定めのある場合』には、本法の定年制度の対象とはならない。一般職の国家公務員については、原則的には本法に定める定年制度が適用されるが、従来から他の法律により定年制度が定められているものについては、その経緯等にかんがみ、それぞれの法律による定年制度を適用しようとするものである。このようなものとしては、検察庁法第22条による検事総長(65歳)および検察官(63歳)の定年・・・がある。」(同642頁)との記載がなされている。

 

3 検察官の特殊性と検察庁法

 検察官は、刑事訴訟法上、強大な捜査権を有し、起訴権限を独占する立場にあって、準司法的作用を有しているといえる。また、検察官は犯罪の嫌疑があれば、政治家をも捜査の対象とするため、政治的に中立公正でなければならない。検察庁法22条の規定は、上記の背景を踏まえ、検察官の人事に政治の恣意的な介入を排除し、検察官の独立性を確保するためのものであって、憲法の基本原理である権力分立に基礎を置くものである。

 

4 検察官に対し、国家公務員法81条の2を適用することはできないこと

 これらを踏まえると、人事院の見解としては、検察官の定年については、特別法たる検察庁法第22条が国家公務員法81条の2第1項にいう「法律に別段の定め」であり、一般法ともいうべき国家公務員法の適用はなく、特別法たる検察庁法の規定が適用されることを明言している。

 そうすると、国家公務員法81条の2が適用されない以上、「前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合」を要件とする国家公務員法81条の3は適用できない。

 

5 結論

 以上で検討してきたとおり、先般行われた、黒川氏に対する国家公務員法81条の3の規定に基づく任期延長の閣議決定は、国家公務員法、検察庁法の規定の解釈・適用を誤ったものであり、違法であると言わざるを得ない。

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 事務局長 弁護士 岡邑 祐樹

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