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 新型コロナウイルスの対処のために憲法改正は必要ない(2020.6.8 呉 裕麻会員)

 

 世界中で新型コロナウイルスが猛威を振るっている。日本でも新型インフルエンザ等対策特別措置法が改正され、新型コロナウイルスについてもまた同法の対象とされた。その結果、同法に基づく緊急事態宣言が全国に発令され、被害拡大の防止に繋がった。

 

 このような新型コロナウイルスの猛威が続く中、安倍首相は今年5月3日に行われた憲法フォーラムにビデオメッセージを送った。メッセージでは、新型コロナウイルスへの政府としての対応策などに触れた上で、現行憲法においては、緊急時に対応する規定は参議院の緊急集会しか存在しないと指摘した上で、自民党改憲4項目に含まれる緊急事態条項を憲法審査会の場で議論を進めていくべきであると述べている。

 かかるメッセージは要するに、新型コロナウイルスという未曽有の危機に乗じて、自民党が以前から目指している改憲を実現しようとの目論みに他ならない。

 

 しかしながら、このような目論みは、次に述べる理由から、到底許すことはできない。

 

 第1に、そもそも緊急事態条項は、平時の統治機構をもっては対処できない非常事態において、国家の存立を維持するための手段として、立憲的な憲法秩序を一時停止して非常措置をとることを認めるものである。

 ところが、この度の新型コロナウイルス蔓延に対する対策は、立憲的な憲法秩序を停止しないとなし得ないという性質のものではない。

 

 第2に、 緊急事態条項は、行政府に立法権限を認めるに等しく三権分立による統治構造を破壊するものであり許されない。

 すなわち、自民党の改正案では「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる。」と規定され、行政による立法を認めている。

 しかし、日本の憲法は三権分立を通じたチェック&バランスによって、国家権力の暴走を阻止しているところ、かかる規定はこの三権分立の枠組み自体を取り壊すものである。また、三権分立に代わって国家権力の暴走を阻止する仕組みも担保されていない。

 

 第3に、自民党が想定する緊急事態条項は国民に対する権利制限も過大であり、人権保障の観点から許されない。

 すなわち、自民党の改正案では、その99条3項に「緊急事態の宣言が発せられた場合には,何人も,法律の定めるところにより,当該宣言にかかる事態において国民の生命,身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他の公の機関の指示に従わなければならない」と定められているように、緊急事態宣言が発令されると、国民は国の指示に従う明確な義務を負うこととなる。

 これは、例えば武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律において、「国民は,この法律の規定により国民の保護のための措置の実施に関し協力を要請されたときは,必要な協力をするよう努めるものとする。」とされ、あくまで努力義務にとどまっていたことと対比してみると、国民が負うことになる義務の内容の違いが明らかになる。

 すなわち、自民党の改正案では、国民は国に対してその指示に従う義務を負うのであり、これまでにない権利制限を認めることとなるのである。

 しかし、このような権利制限は、国民の人権を最大限に保障する現行憲法の理念と相反するものであり許されない。

 

 第4に、新型コロナウイルスのような危機に対処するために憲法を改正して緊急事態条項を創設する必要はまったくない。

 すなわち、今回まさに新型インフルエンザ等対策特別措置法を改正することで、新型コロナウイルスについても同法の適用対象となった。その結果、緊急事態宣言が発令され、被害拡大防止に繋がったことは冒頭で述べたとおりである。

 また、マスクの品薄から高額転売の問題が生じたが、これは国民生活安定緊急措置法の政令を改正することで高額転売を、罰則をもって禁止するに至った。

 このように、新型コロナウイルスについては、憲法に緊急事態条項が存在しないからといって、何らの措置もなし得ないということではない。

 

 以上のように、そもそも自民党が掲げる緊急事態条項は、いかなる観点から分析しても、到底認める余地がない代物である。ましてや新型コロナウイルスの蔓延を利用して改憲を実現することなどもっての外である。

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