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テロとの戦いと新共和国の誕生、しかし、なぜ民主主義が根付かなかったのか

(2021.9.23 山本 勝敏会員)

 

 テロとの戦争とその後

 2001年10月2日、アメリカ同時多発テロ事件を受けてアフガニスタン紛争が開始され、年末にタリバン政権が崩壊し、同年12月22日、カルザイが暫定政権の首相となり、言論と信教の自由、女性の権利の尊重、教育の復興など13項目の施政方針を発表した。

 2004年1月、新憲法が発布され、その後、第1回大統領選挙、下院議員選挙・州議会選挙、第二回大統領選挙、下院議会選挙、第三回大統領選挙、第三回下院議員選挙などが実施されたが、アメリカ軍撤退期限が迫る中、2021年8月15日、タリバンがアフガニスタン大統領府を掌握し、ガニ大統領はタジキスタンに出国した。これにより、約20年続いたアフガニスタンの民主政権は事実上崩壊した。

 

 アフガニスタンの人権状況

 アフガニスタン王国時代の1964年に制定された憲法では男女平等が謳われ、その後1970年代の社会主義政権時代はより一層の世俗化を推し進め、女性は洋服を着て教育を受けており、都市部ではビジャブやスカーフを被る人も少なかった。1978年には医者の4割が女性、カブール大学の講師の60%が女性であったが、農村部の世俗化は進まなかったことと、その後の社会主義政権の崩壊とともにムジャヒディンの勝利を経て1990年代にイスラム主義に回帰した。

 1996年9月、タリバンが首都カブールを制圧し、アフガニスタン・イスラム首長国を建国した際、タリバン政権は厳格なイスラム主義に基づき、過度に娯楽や文化を否定し、公開処刑を日常的に行い、女性は学ぶことも働くことも禁止され、親族男性を伴わなければ外出さえも認められなかったとされている。

 これに対して、アフガニスタンで支援活動を長年続けた中村哲医師は、「タリバンは訳が分からない狂信的集団のように言われますが、我々がアフガン国内に入ってみると全然違う。恐怖政治も言論統制もしていない。田舎を基盤とする政権で、いろいろな布告も今まであった慣習を明文化したという感じ。少なくとも農民・貧民層にはほとんど違和感はないようです。」と評している。

 タリバン政権が崩壊した後、カルザイ政権下でアフガニスタンにおける世俗化は一定程度進んだとされるが、2018年時点でもいまだに女性の識字率は3割未満である。現在でもアフガニスタンはイスラム法及びその強い影響下にある世俗法に基づく統治が行われ、イスラム国家としての色彩が強い。

 

 アフガニスタンという国について

 前記中村哲医師によれば、現在のアフガニスタンは全体でみれば、国の9割以上を占めるのは農村であり、兵農分離のない“中世期農村社会¨に似ているといえる。ただし、首都カブールだけは王族によって積極的に西欧化・近代化が推進され、一握りの富裕層・知識層が西欧文化を享受した時期があり、また、ソ連侵攻後、掲げた改革綱領には男女平等などの人権策が盛り込まれており、それを伝統社会とまったく対立する形で押しつけたのは間違いであったが、封建制にインパクトを与えた。

 アフガニスタン紛争後、暫定政権が成立したが、アメリカ軍は終始、安全な上空にとどまり、危険な地上戦を各地域の「反タリバン軍閥」に請け負わせたため大量の武器と資金が各軍閥に流れた。そのため、アメリカはカルザイ政権を擁立しながら、他方で国家統一をはばむ地方軍閥を支えるという奇怪な構図になっている。

 中世そのものといえる今のアフガニスタンの農村部には整備された貨幣経済はなく、イスラム社会では「儲ける」という商行為そのものが軽んじられる傾向があり、グローバリズムの根幹を成す資本主義そのものが否定的にとらえられている(中村哲、ペシャワール会編「空爆と『復興』」2004)。

 つまり、アフガニスタンは、国王やソ連により首都カブールを中心として近代化が進められた時期があったが、テロとの戦争後も、近代化は首都カブールにとどまり、国家統一には至らず、9割を占める農村は前近代的なイスラム社会にとどまったのである。

 

 アフガニスタンにはなぜ民主主義が根付かなかったのか

 私達が考える民主主義とは、国民主権、基本的人権保障を憲法で定め、国民の選挙で選ばれた議員が国会を通して制定した法律により政治が行われ、三権が分立した統治形態のことである。そしてグローバリゼーションとは自由市場経済が行き渡った世界のことである。しかし、元々、アフガニスタンには首都カブールを除きそのような制度を受け入れる素地がなく、国の9割を占める農村は、日本でいえば天下統一がされる前の戦国時代のような世界である。

 国家を統治する原理としては、当面、国民の9割を占める農村に根付くイスラム主義に置くほかない社会に、先進資本主義国の統治原理である民主主義や男女平等を急速に実現させようとしてうまく行かなかったのがアフガニスタンの現実である。

 私達の常識からすれば、タリバンが女性に「ブルカ」を強要することや、女性の就労や就学を認めない建前をとることは明らかな人権侵害である。しかし、私達が住む社会に至る前の前期社会に住む人達に対して私達の考えを押しつけても、民主主義の実現、つまり、その社会をそこに住む人間の意思により変えていくことにはならないであろう。

 民主主義が国民の意思で最終的な政治のあり方を決定することであるとすれば、押しつけではなく、自発的発展を手助けすることしかとるべき途はないように思われる。アメリカによる軍事力を背景にしたアフガニスタン統治が破綻した現実において、それは、タリバン政権を全面否定することではなく、経済援助を行いながら、民主主義や普遍的人権保障に進むことが国の発展、国民の幸福に沿うことを説得していくほかにないように思われる。

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