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 ヤングケアラーを減らすために障害福祉サービスの拡充を!(2022.2.17 森岡 佑貴会員)

 

1 はじめに

 皆さんは、ヤングケアラーという言葉をご存知でしょうか。

 ヤングケアラーとは、法律上の定義はありませんが、一般に、本来大人が担うと想定されている家事や家族の世話などを日常的に行っている子どもとされています。具体的には、障がいや病気のある家族に代わり、買い物、料理、掃除、洗濯などの家事を担ったり、幼いきょうだいの世話をしたり、障がいや病気のある家族、高齢の家族について世話、声掛け、見守りなどの支援を担うなどを行ったりする者のことを言っています。

 令和3年4月には、ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書が発表され、令和3年5月17日には、ヤングケアラーの支援に向けた福祉・介護・医療・教育の連携プロジェクトチーム報告が行われています。

 同プロジェクトチームの会議では、令和3年9月14日付ヤングケアラーの支援に関する令和4年度概算要求等についてという資料も公表されております。

 さらに、本年2月9日には、国民民主党がヤングケアラーの支援法案を参議院に提出したことが報道されるなど大きな注目を集めています。

 本コラムでは、こうしたヤングケアラーの問題、とりわけ障がいのある家族の支援を担っている者について触れてみたいと思います。

 

2 ヤングケアラーの問題

(1)ヤングケアラー自身の問題

 ヤングケアラーの問題としては、いくつか指摘がなされています。要介護者の介護者が不足している場合、ヤングケアラーが要介護者のそばを離れられず、これが遅刻、早退、欠席といった学業へ支障を来す可能性があります。また、介護に時間を取られる結果、学業が不十分になることもあります。こうした問題はさらに発展して、不登校などの事態に発展し、子どもの将来に重大な影響をもたらす危険性があります。

 また、介護に時間を取られるがために、就業機会が制限されたり、交友関係が乏しくなるなど社会性獲得に対しても大きな影響があると言われています。

 このようにヤングケアラーの問題は、介護等を担っている子ども自身の幸福追求(憲法13条)を大きく阻害するおそれがあります。

(2)要介護者の問題

 要介護者においても、ヤングケアラーに介護を頼まなければならない現状は、自身の状態について強い拒絶感等を生み、要介護者自身にも大きな影響をもたらすこととなります。

(3)ヤングケアラーを発見すること自体の難しさ

 こうした問題を抱えるヤングケアラーですが、そもそも、ヤングケアラー自体は、家庭内で活動することもあり、発見が難しいという問題があります。先の調査報告でも、世話をしている家族がいると答えた中学2年生が5.7%、全日制高校2年生が4.1%も存在するのに対し、自身がヤングケアラーであると認識している中学2年生は僅か1.8%、全日制高校2年生でも2.3%とそもそも自覚自体がないケースも相当数存在します。さらに、ヤングケアラーという言葉自体を聞いたことがない者も中学2年生、全日制高校2年生共に8割を超えています。

 本調査の意味するところとして、そもそも自身がヤングケアラーであったとしても、その意味自体が理解できず、自身がヤングケアラーであるという認識が出来ないがために、ヤングケアラーそのものを発見することが困難であるという問題があります。

 そのため、調査対象となった市区町村のうち82%がヤングケアラーに対する取組を行っていないことも明らかとなりました。

 ヤングケアラー支援の課題についても、多くの市区町村がヤングケアラー自身及び周囲の大人がヤングケアラーであると認識していないケースが多いことを挙げており、次いで、子ども自身がやりがいを感じており、自身の状況を問題と認識しておらず、支援を求めないという課題も浮かび上がっています。

 

3 本来望まれる支援の在り方

 憲法13条は、すべて国民は、個人として尊重されると規定しています。

 また、障害者基本法は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念に則り、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現することを謳っています(第1条)。

 障害者総合支援法第1条は、上記障害者基本法の理念に則り、障害者が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活を営むことができるよう、必要な支援を行い、もって障害者の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的と定め、同法は各種の障害福祉サービスについて規定しています。

 言うまでもなく、障害福祉サービス等を利用し、要介護者への介護支給量が増えれば、その分、ヤングケアラーが要介護者を支援する支援量は減り、ヤングケアラーにとっては、自分自身の時間が持て、要介護者にとっては、ヤングケアラーが介助者としてではなく、家族の一員として関わることになり、自身の状態を受け入れ、拒絶感を示すことも減るはずです。

 もっとも、こうした障害福祉サービスの利用をめぐっては、日本においては、非常に過小な申請しかなされないことも多いです。その根底には、まず家族が介護して当たり前と言う家族介護という考え方があるように思われます。

 ヤングケアラーについて体験者らによって体験談などが語られ、美談のように扱われることもあります。もっとも、先に見たとおり、ヤングケアラーの問題は、当該子ども自身は勿論、要介護者にとっても、大きな問題を孕んでおり、家族介護を行って初めて得られるものがあること自体は否定しませんが、それによって子ども自身のかけがえのない時間を失うことにも注意を要するべきです。

 だからこそ、私は、そもそもヤングケアラーを減らすべく公助、すなわち、障害福祉サービスの活用を図るべきと考えています。

 ヤングケアラーを支援するという方策については、現に存在するヤングケアラーを発見、認識し、横のつながりや相談先を作るなどの支援活動が専ら検討されているところです。また、先に見た国民民主党の提出法案もヤングケアラーの実態に関する調査を定期的に行うこと、調査結果を踏まえつつ、効果的な支援の方法に関する調査研究の推進、福祉的・教育的支援について必要な施策を講じるといった内容のようです。ですが、これにとどまることなく、障害福祉サービスの活用を啓蒙し、将来のヤングケアラーを減らすための努力も同時になされるべきではないかと考えています。

 

4 おわりに

 誰しも、突如として病気や大きな事故により、障害を抱えることがあります。そのとき、社会において、家族介護がまず求められ、ヤングケアラーを生み出してしまう社会そのものをまずは変えていくべきではありませんか。昨今のヤングケアラー支援の報道等を見る度にそのように考えざるを得ません。

 自分自身に何か起きた際、かけがえのない個人として尊重されるためにも、ヤングケアラーの問題を多くの人が知り、まず自助すなわち家族介護ではなく、まず公助すなわち障害福祉サービスとなるような社会になってほしいと思っています。

 そして、そのことが急がば回れという言葉もあるとおり、結果的にヤングケアラーの問題を解決する近道になるのではないかと考えています。

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 事務局長 弁護士 岡邑 祐樹

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