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 表現の自由を見つめ直す(2022.3.14 河田 布香会員)

 

1 表現の自由の優越的地位

 表現の自由は、憲法21条が保障する基本的人権の一つである。個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという自己実現の価値を有すること、言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという自己統治の価値を有することから、とりわけ重要な権利とされる。

 とはいえ、表現の自由といえども無制約ではない。違法な表現として許されないものもある。たとえば、他者の名誉を棄損する表現、すなわち社会的評価という法律上保護される利益を侵害する表現は民事上の不法行為責任を生じさせ得るし、場合によれば刑事責任が生じることもある。

 裏を返せば、違法な表現にならない限りにおいて、個人には憲法上自由な表現行為が保障されている。そして、その表現が違法であるかどうかの判断は事後的になされ、表現行為が事前に抑制されることは基本的に許容されない。

 

2 ネットリンチ現象の特徴

 しかし、インターネットの普及に伴い、表現の自由に対する考え方を今一度見つめ直すべき局面が来ている。

 2021年10月26日、小室圭さんと秋篠宮家の長女である眞子さんが結婚した。この頃、インターネット上では、小室さんを誹謗中傷するおびただしい数の表現があふれていた。いわゆるネットリンチ、炎上などと呼ばれる現象である。また、小室さんを誹謗中傷する表現行為の中には、民事上の不法行為責任や刑事責任を生じさせるには至らないものの、不快の念を抱かせるには十分な表現も多分に含まれてたように見受けられる。

 従来の考え方に基づくと、行き過ぎた表現行為に関しては、事後的に責任追及を行うとことによって、表現の自由と他方利益との調整が図られることになる。しかし、ネットリンチ現象は、相手方が極めて多数であることが特徴であるから、このような調整方法では時間と手間がかかりすぎ、適当ではない。

 また、「違法ではないが不快な表現」に対しては、事後的な責任追及という手法を取ることができない。先述した表現の自由の重要性に照らせば、当然の結論である。しかし、ネットリンチの現場では、こうした不快な表現が、1人の個人に対して、おびただしい量で届けられることになる。当然、その個人の心は深く傷つき、追い詰められる。場合によっては取返しのつかない結果を招くこともある。

 ネットリンチ現象が起きた場合には、その特徴を踏まえ、これまでと違う表現の自由と他方利益との調整方法を考える必要がある。

 

3 ネットリンチ現象への対応

 現在、ネットリンチ現象に対処するため、プラットフォーム事業者の自主的な取り組みを強化していくことが検討されている。具体的には、プラットフォーム事業者に対し、問題となる表現行為の自主的な削除、削除要請や苦情への対応、発信者情報開示への対応等を継続的にヒアリング・モニタリングすることによって、間接的に一定の取り組みを事実上義務付けようとするものである。

 国家が直接的に介入を行うよりも緩和的な方策であり、表現の自由の優越性に配慮した優れた方法と評価できる。

 他には、侮辱罪の法定刑を1年以下の懲役・禁固または30万円以下の罰金とすべき旨の案も出されている。あくまで事後規制であるという意味においては、比較的緩和的な対応といえるかもしれないが、刑事処罰を受けることの社会的影響の大きさや、公権力が介入する規制であることを考えると、やはり慎重な検討が必要であろう。

 

4 結び

 今、社会全体で、表現の自由を見つめ直すべきである。そうしなければ、表現の自由が、他者の心を踏みにじってもよい権利と化してしまう。表現の自由の重要性と価値を維持するため、工夫を凝らさなければならない。その一方で、人々の表現が過度に委縮することがあってもいけない。慎重にバランスを取ることが求められる。

 インターネット上での誹謗中傷に関し、流れてくるニュースはセンセーショナルなものが多く、ともすれば安易に表現の自由を制約する方向に議論が傾きかねない。だからこそ、表現の自由と他方利益をどのように調整していくのが望ましいか、冷静に検討する態度が必要とされる。

以 上

 

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