青年法律家協会岡山支部
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 朝ドラ『虎に翼』・・・ブルーパージ(2024.9.27 吉村 清人会員)

 

 かねてより、朝ドラ『虎に翼』については、ブルーパージ(=青法協(青年法律家協会)裁判官部会に対する攻撃・排除)が、はたして描かれるのか、描かれるとしたら、どのように描かれるのかが、注目の的だったが、先週の初めについにブルーパージが描かれた。

 青法協は1954(昭和29)年4月、破防法反対運動の中から生まれた。

 設立趣意書では、次のように述べられている。

 「戦争から敗戦の過程をへて、わたくしたちはあまりにも多くのものをうしないましたが、その高価な代価をはらって、ようやく平和と民主主義の原則を獲得しました。平和と民主主義を標ぼうする日本国憲法はこのようにして、制定されたものであると考えます。

 ところが、その後何年もたたないうちに、再軍備が課題となり、これと関連して思想、言論、集会、結社の自由や団体行動の自由がふたたび否定しさられようとしています。もしもこのまま自由と人権が否定されていくならば、またあの暗い時代がくることはだれがみてもあきらかでありましょう。

 わたくしたちは、おなじ時代にそだった人間としてすべての政治的立場をはなれて、なお共通の考えと立場をもつことが多く、また法律家としては、その職能をとおして、憲法を擁護する権利と義務と責任をもっております。わたくしたち全国の若い法律家があつまって平和と民主主義をまもる会を設立しようとしている」

 設立発起人には、学者では、広中俊雄(千葉大学)、橋本公亘(中央大学)、星野安三郎(東京学芸大学)、芦部信喜・加藤一郎・小林直樹・高柳信一・平野竜一・三ケ月章・渡辺洋三(以上東京大学)・・・、弁護士では、石島泰・小島成一・佐藤義弥・竹沢哲夫・松井康浩・増岡章三・・・といった、錚々たる顔ぶれが名を連ねている。

 

 青法協の構成メンバーには、弁護士、裁判官、検察官、法律学者、司法修習生の各職能が含まれ、そのうち裁判官はその特殊な立場を考慮して裁判官部会を作って、青法協の中でも独自の活動をしていた。

 そして、裁判所部内では、青法協の会員裁判官たちは、まじめに職務に取り組み研究心の旺盛な裁判官であるという声価をかち得て来ていた。

 青法協裁判官部会の研究会には、後に最高裁判事になったような司法部の中枢の要職を占める幾人もの裁判官が講師として出席し、機関誌「かがり火」にも執筆していた。

 裁判官の中に青法協会員の占める割合は、年を逐って増加していった。たとえば、1968(昭和43)年4月、裁判官に任官した司法修習20期判事補で東京地裁に配属された12名のうち、実に10名が青法協会員であった。

 

 しかし、1967(昭和42)年10月、右翼による暴露雑誌『全貌』が、偏向裁判=青法協攻撃キャンペーンを開始した。

 1969(昭和44)年3月24日に、東京地裁が東京都公安条例違反事件について同条例の違憲無効を宣言して被告人を無罪とする判決を出すと、翌25日に、西郷吉之助法務大臣は、この無罪判決に憤って、「あそこ(裁判所)だけは手が出せなかったが、最早なんらかの歯止めが必要になった。」と発言した。そして、5月13日に自民党は、司法制度調査会を設置した。

 「虎に翼」で松山ケンイチさん演じる桂場等一郎のモデルとされる石田和外が、1969(昭和44)年に第5代最高裁長官になると、裁判所内でのブルーパージの嵐が吹き荒れた。

 青法協に所属する裁判官は、人事面で冷遇され、左遷され排除されていった。

 下級裁判所(最高裁以外の裁判所)の裁判官は任期が10年で、ほとんどが再任されるが、青法協会員の宮本康昭裁判官は1971(昭和46)年3月31日に再任拒否された。

 一方で最高裁は、青法協会員の裁判官たちに脱会も働きかけた。これを受け、若手エリート裁判官の集まりである最高裁局付の判事補たちが、1969(昭和44)年11月に、集団で青法協を脱会した。

 これに留まらず、青法協の司法修習生部会も弾圧され、1971(昭和46)年3月31日に最高裁判所は、司法修習23期の司法修習生7名(うち6名が青法協会員、他の1名も「任官拒否を許さぬ会」会員)の裁判官への任官を拒否した。さらに、4月5日、司法修習23期修了式で、阪口徳雄クラス委員会委員長が、クラス委員会の決議にもとづき、その代表として同期の裁判官志望者のうち7名の新任を拒否されたものに対し、発言の機会を与えるよう要望したことに対して、最高裁は阪口徳雄氏を即日罷免した。なお、法務省も、4月2日、青法協会員1名の検事任官を拒否した。

 

 ブルーパージに対しては、法曹界の内外から「これでは戦前に司法省の下部組織だったころの裁判所と同じ」と批判が巻き起こった。ちなみに青法協裁判官部会は第4代最高裁長官・横田正俊のころからあったが、同氏は「青法協にはそう神経質になる必要はない」と鷹揚だった。

 350名を数えた裁判官部会会員は、ブルーパージの嵐がほぼ1年間全国に吹きまくったあと、200名台に減っていた。そして、その後、青法協裁判官部会は存続困難となり、消滅を余儀なくされる。

 石田がブルーパージを敢行したのは、保守政党に擦り寄ろうとしたからではない。むしろ逆で、政治家に裁判内容や裁判所の人事に口出しされるのが嫌だから、先手を打つ形で青法協の裁判官たちを冷遇したのである。

 

 桂場は貴族院議員・水沼淳三郎(平沼騏一郎がモデルであり、森次晃嗣さんが演じた)の仕掛けた「共亜事件」で、水沼の意に沿わぬ判決を出したことから、冷や飯を食わされた。これで政治家を嫌った。

 桂場は竹もとで「もう2度と権力好きのジジイたちに好きなようにはさせない!」(第70回)と、政治家に対し怒り、その後、「司法の独立」ということを盛んに口にしていた。

 しかし、彼(桂場も石田も)の言う「司法の独立」は、政治家の意向に反してでも法に従って裁判を行なうというのではなく、政治家に司法(裁判や裁判所)に介入されるのが嫌だから、政治家の意向を先取りして裁判所自らが実行してしまうというものであった。

 

 石田は、退官後の1978年に、「元号法制化実現国民会議」を結成し、その議長となった。元号法制化実現国民会議は、のちの「日本を守る国民会議」であり、日本会議の前身団体の一つである。

 石田は、保守政治家と対峙するどころか、思想的には、戦前回帰をめざす、根っからの岩盤保守だったのである。

 

 Facebookの情報によると、朝ドラ『虎に翼』でのブルーパージの描き方について、私の同業者の中には、「三淵さん(=寅子)自身が脱会を促したことまで描け」という方もいらっしゃるらしい。

 確かに、史実のブルーパージに比すれば、朝ドラ『虎に翼』でのブルーパージの描き方は生ぬるいのかもしれない。

 しかし、『虎に翼』は、NHKスペシャルでも、『映像の世紀 バタフライ・エフェクト』でもなく、朝ドラであり、その朝ドラでここまでブルーパージを描いたことについては、私は、脚本家をはじめとする製作スタッフに対し、「よくぞここまで、腹を括って、しかも、難癖をつけられないように絶妙の工夫をした脚本で、描いたものだ」と、「あっぱれ!」をあげたい。

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