貧困率のはなし(2015.3.31 藤井 嘉子会員)
     1 貧困とはなんなのか。
     日本の貧困率はOECD諸国で6番目(OECD FACT BOOK 2014より。2010年前後のデータ)、所得格差が広がりつつあると言われています。日本だけでなく、世界中で、貧困率が上がっているとも言われます(実際に、OECDの統計では、2010年頃の貧困率は。20カ国中17カ国で、1990年代よりも上がっているという結果が出ています。ちなみに、母集団が34カ国ではなく20カ国なのは、1990年代から継続してOECDで貧困率の統計をとっている国が20カ国だからです)。
     ・・・が、そもそも貧困率って何でしょうか。今日は、少しその説明をしてみたいと思います。
     2 そもそも貧困率が4番目って何よ
     (1) はじめに
     そうは言っても、そもそも「貧困率がOECD諸国で6番目」って何なんでしょうね。そこから少しご説明します。
     (2) OECD
     まず、OECDというのは、正式名称を経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and
    Development)といいます。先進国等が集まって、自由な意見交換・情報交換を通じて、1)経済成長、2)貿易自由化、3)途上国支援(これを「OECDの三大目的」といいます)に貢献しよう、という目的で活動している組織です。様々な分野の政策や経済状況について分析を行ったり、国際基準を出したりしています。
     で、その分析の中に、各国の貧困率の分析というのもあるわけです。OECDに加盟しているのは、現在34カ国。貧困率が加盟国中6位というのは、34カ国中の6位という事になるのですね。
     ちなみに、日本より貧困率が高いのは、イスラエル、メキシコ、トルコ、チリ、アメリカです。一方、貧困率が低い国は、デンマーク、チェコ、アイスランドなど。
     日本の場合、1980年代ころには12%程度だった貧困率が、2010年ころには16%程度まで上昇しています。
     (3) 貧困率
     「貧困率」というのは、要するに、国民の中に占める貧しい人の割合を指します。
     じゃあ、どうやって「貧しい人」と「そうでない人」を分けるのか。
     もちろん、例えば全財産が0円で収入も0円という人がいた場合、その人が「貧しい人」であることは間違いありません。けれど、月収が5万円の人が貧困かどうかとなるとちょっとややこしくなります。東京で生活するには、月収5万円では厳しいですよね。家賃を払ったら手元に何も残らない(家賃も払えるかどうかちょっと怪しい)。一方で、例えばカンボジアに住んでいるなら月収5万円で十分生活が成り立つわけです。
     月収5万円というのは日本では食うや食わずなんだけど、他の国では案外そうでもなかったりするのですね。だからといって、日本で月収5万円生活の人が困っていないわけではありません。
     つまり、世界規模でいうと、単純に「AさんとBさんそれぞれがいくら持っているか、いくら稼いでいるかをドル換算で一覧表にしました!」とやっても、「貧しさ」をうまくはかることができないのです。
     そこで、「貧困率」という考え方を使って、「貧しい人」と「そうでない人」を分けようという発想ができたわけです。
     この「貧困率」の出し方は、大雑把にいうと、1世帯あたりの手取収入をざーっと並べて、その真ん中ヘンの数値をとり(「中央値」というのですが、面倒なので「真ん中ヘンの数値をとる」と思ってください)、その「真ん中ヘンの数値」の半分以下で暮らしている人を「貧しい人」と考えて、国民の中で「貧しい人(≒国民の真ん中ヘンの手取り収入の半分以下で生活している人)」の割合を出す、というやり方です(この「真ん中ヘンの数値」の半分のところを「貧困ライン」と呼んだりします)。
     例えば、国民のだいたいの「真ん中ヘンの年収」が500万円だとすると、250万円以下の年収で暮らしている人を「貧しい人」ととらえるわけですね。
     もちろん、この算定の仕方が万能というわけではありません。「国民みんな等しく貧しい」状態になれば、貧困ラインは下がってしまうからです。
     ただ、この数値を出すことで、「A国の中では、平均的な人の半分以下で生活している人が○%いる。」という事がわかりますから、その国の収入のある人とない人の割合、言ってみれば収入の「偏り」がわかるのです。この算定の仕方は、あくまでも、周りと比べて貧しいかどうか・複数の人たちを並べた時に収入に格差があるかどうかを出すという指標なのですね。
     3 貧困率と貧困の実際
     以上を前提にすると、冒頭に書いた、「日本の貧困率はOECD諸国で6番目」という言葉は、「他のだいたいの国民と比べて、半分以下の収入で暮らしている人の割合が、34カ国中6番目に多い。」という意味だという事がわかります。つまり、格差が大きいという事です。ちなみに、日本の貧困ライン(他のだいたいの国民の半分の収入)は、平成21年で、112万円(物価の上昇や下落も加味した数字です。「実質値」といいます)です(厚生労働省 平成22年 国民生活基礎調査)
     なんとなく、「貧困率」という数字をイメージして頂けたでしょうか。
     今日の話のメインはここまでなのですが、個人的には、「貧困」の問題というのは、単に(数字で表されるような)「お金がない」「貧乏している」という事ではないと思っています。
     実際に「貧しさ」で困っている方と話をすると、障害や病気が貧困の原因になっていてご本人や家族が辛い思いをしている、貧困が原因で家族や知人と疎遠になり、孤立してしまっているなど、「お金がない」だけではない様々な問題に直面します。そこでは、「貧しさ」は単純にお金がないという事ではなく、「生きづらさ」そのものです。そして、そういった「生きづらさ」は、人との温かい関係性や生き甲斐等、いろいろな「生きてるっていいなあ」という実感をもって初めて解消されていくのだと思うのです。
     そういった「生きづらさ」解消のためには、安心して生活できるだけの経済的基盤と、それにプラスして、「生きてるって悪くねえじゃん」と思えるような「縁」が必要です。
    「縁」の中身は人それぞれ。やりがいある仕事、ボランティア活動、ちょっとした茶飲み話ができる友達・・・。いろんな「縁」があちこちから伸び合って絡み合って、「悪くねーじゃん」と思える社会が作れたらいいなあと常々思っています。
    参考URL
    ☆厚生労働省HP
    http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/2-7.html
    ☆OECD FACT BOOK 2014
    http://www.oecd-ilibrary.org/economics/oecd-factbook-2014_factbook-2014-en